取材の現場より 独想最前線

映画の撮影現場や来日記者会見、ジャパンプレミアに舞台挨拶と監督や俳優が顔を出す機会は多々あるが、それぞれの知られていない人柄や隠れた一面をのぞくチャンスは意外に少ない。そんなとっておきの話題の数々を、最前線で活躍する執筆陣が提供します。

参院選目前に「映画『立候補』」を
選挙の内実に迫る必見のドキュメンタリー

 来る参議院議員選挙を前に、3本の選挙ドキュメンタリーが注目されている。金子遊監督「ムネオイズム」(公開中)、藤岡利充監督「映画『立候補』」(同)、想田和弘監督「選挙2」(7月6日公開)。中でも、2011年11月の大阪府知事選に立候補したマック赤坂氏を追った「映画『立候補』」は、泡沫候補の視点から選挙制度の問題点と日本社会を投影した異色作で、秀作の呼び声も高い。


 藤岡監督はCM業界出身。しかし結婚を機会に地元・山口に戻り、新聞配達店の経営者になった。だが大けがで約1カ月の入院を余儀なくされて人生を振り返った際、1度は諦めた映像の仕事への思いがよみがえったという。そして企画したのが、己の信念に基いてまい進する人物にインタビューする「夢追い人」と題したネット配信番組。トップバッターに選んだのが、07年の東京都知事選立候補者で、政見放送で物議をかもした政治活動家・外山恒一氏。続いて、「10度、20度、30度、スマイル!」の合い言葉で知られるスマイル党総裁のマック氏にたどり着き、本作へと発展した。


 もっとも当初の狙いは、「青森の羽柴秀吉氏も立候補予定だったから、マックさんが『彼が秀吉なら俺は(織田)信長。秀吉VS信長の戦いを撮れ!』と(苦笑)。しかし羽柴さんが病気で出馬を断念。映画になるのかと不安になりました」(藤岡監督)。

 加えてマック氏は、家族のことなど私生活に触れられることを嫌ったという。カメラを回すのも事前に許可を得られた時間のみで、気分が乗らない時は中断することも。頼みの街頭演説も基本的に踊っているだけで、撮る側にすれば変化に乏しい。


 しかし、映画の神は藤岡監督を見放さなかったようだ。藤岡監督は大阪府知事選に続き、12年末の衆院選にも出馬したマック氏を追う。ドラマが起こったのは、投票日前夜に秋葉原駅前で行われた自民党総裁・安倍晋三氏の街頭演説。日の丸を掲げた軍団が集まった異様な雰囲気の会場に、マック氏が乗り込んだのだ。バ声を浴びせられる完全アウエー。しかし、ある奇跡が。クライマックスに使用されたその映像に、マスコミ試写でも胸震わせる人が続出。藤岡監督も「泣きながらカメラを回した」と述懐する、印象的なシーンが生まれた。

 一方で本作は、厳しい現実を突きつける。周知のようにマック氏は全敗中。間近で選挙戦を見つめた藤岡監督も「組織に属せず個人で戦うことの限界を感じた」と漏らす。ただし、有権者としてマック氏に1票を投じるか否かについては「ノーコメント」だそうだ。

(映画ジャーナリスト 中山治美)


 

「映画『立候補』」

無視され、ば倒され、それでも立ち続ける。大阪府知事・市長選挙で泡沫(ほうまつ)候補と呼ばれた男たちの歴史に残ることのないチャレンジとその原動力に迫った。

監督:藤岡利充
キャスト:マック赤坂、羽柴誠三秀吉、外山恒一

公開中

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